

ボクシング界の至宝といえば、井上尚弥です。
その圧倒的な強さから「モンスター」と称され、多くのファンを魅了し続けています。
しかし、どんな強者にも攻略の糸口を探るのが対戦相手の常識です。
近年、一部で囁かれる井上選手の「ガラスの顎」という評価に注目し、
試合で狙うことが果たして現実的なのか、深く掘り下げて考察します。
「ガラスの顎」という評価の実態

井上選手が「ガラスの顎を持つ」という声は、
2025年5月4日(日本時間5日)のラモン・カルデナス戦でダウンを喫した際に、
一部のSNSユーザーなどから発信されました。
アマチュア時代を含めてキャリア2度目のダウンだったこともあり、
衝撃が走ったのは事実です。
このダウンシーンの動画と共に「過大評価だ」といった意見も見受けられました。
しかし、この評価に対しては多くの反論があります。
元IBF世界スーパーウェルター級王者イシュー・スミス氏は、
「ボクサーが倒されたからといって、過大評価や過大宣伝されていると言うのは愚かだ!」と
強く反論しています。
フェリックス・トリニダードやディエゴ・コラレスといった、必ずしも打たれ強くなくても
偉大な功績を残した名チャンピオンの名前を挙げ、
ダウン経験だけで選手を評価してはいけないと指摘しています。
過去には、2019年のノニト・ドネア戦後、敵地メディアが
井上選手の打たれ強さを称賛した報道もあります。

ドネア選手の強打を何本も浴びながらも勝利したことで、
「彼の顎は刀のように破壊不能であることが分かった」と
評されました。
それまで、圧倒的な攻撃力で試合を早いラウンドで決着させてきたため、
打たれ強さを試される機会自体が少なかったのです。
つまり、今回の「ガラスの顎」という評価は、ダウンシーンを切り取った過度な表現であり、
井上選手が持つ総合的な耐久力やリカバリー能力を見誤っている可能性が高いと言えるでしょう。
「ガラスの顎」ではなく破壊不可能ということでしょう!
ボクシングにおける「顎」への攻撃の重要性とリスク
ボクシングにおいて「顎(ジョー)」、特に先端部分の「チン」は、
最もダメージを受けやすい急所の一つです。
ここにクリーンヒットを受けると脳震盪を引き起こしやすく、
KOに直結する重要なターゲットとされています。
そのため、顎を狙うことはKO勝利への近道と考えるのは自然な発想です。
しかし、顎は防御の要でもあります。
ボクサーはガードを高く上げ、顎を引くことで急所を守る技術を徹底的に叩き込まれます。
(ピーカブースタイルでしょうか)

顎を引くことで、相手から見て顎が奥に位置し、首周りの筋肉によって衝撃を緩和する効果も期待できます。
安易に顎を狙いにいけば、相手のカウンターパンチの餌食になるでしょう。
井上選手のような高度なディフェンス技術とカウンターの精度を持つ選手に対しては、
顎への一点集中攻撃は極めて危険な戦略と言わざるを得ません。
井上尚弥選手の戦術的特徴と「顎」以外の弱点
井上選手の強さの源泉の一つは、卓越した距離感と、相手の動きを読む能力にあります。
相手が踏み込まなければパンチが届かないギリギリの距離を保ち、
踏み込み(攻撃の予備動作)に合わせてカウンターを狙うのが得意な戦術です。
(意図的に打たせているようにも感じますが…。)
過去の対戦相手が井上選手に対して有効だったとされる対策や、
指摘される弱点としては以下のような点が挙げられます。
下からのフック系のパンチへの反応
・田口選手やドネア選手が狙っていたとされます。
下から突き上げるようなフックに対して反応がやや遅れる場面が見られたという指摘があります。
ドネア戦では、この軌道のパンチで眼窩底骨折のダメージを負いました。
特定の回避方向の不得手
・井上選手は自身から見て左側へスリップしてカウンターを合わせるのが得意ですが、
右側への回避は比較的不得手で、反撃に繋げにくい傾向があるという分析もありました。
相手が井上選手の顔面の少し右側を狙ってジャブを放つことで、
得意ではない方向に避けさせ、追撃のチャンスを生み出せる可能性があります。
ボディへの攻撃
・遠距離でのボディジャブやボディストレートで意識を下に向かせ、
そこから顔面への攻撃に繋げる戦術が有効ではないかという意見があります。
また、一部ではボディへの攻撃に弱いという指摘も見られるのです。
踏み込みのタイミングを読まれた際の右ボディへのカウンター
・ 井上選手が右ボディを打つ際に、頭を後ろにのけ反らせる癖があり、
そのタイミングで右ボディを防御し、のけ反った無防備な状態を狙って
フックを合わせるという攻略法です。
これを実際に試合で実行するのは極めて高度な技術と洞察力が求められます。
対戦相手は井上選手の「顎」を試合で実践的に狙えるのか?
井上選手の「ガラスの顎」を狙うという戦略は、言葉の響きほど単純ではありません。
井上選手はディフェンス技術に優れ、カウンターの威力と精度は驚異的です。
無闇に狙えば、その隙を突かれて強烈な反撃を受ける可能性が非常に高いでしょう。
カルデナス戦でのダウンは、井上選手が攻め込んだところにカウンターの左フックを受けた形でした。
これは相手のパンチが見えにくい死角だったのでしょう。
ダウン後はラウンドで冷静さを取り戻し、圧倒的な力で逆転TKO勝利を収めていることからも、
一度ダウンを喫したからといって脆さが露呈したと決めつけるのは考えが早いということです。
もし対戦相手が井上選手の顎を本気で狙うのであれば、
それは他の弱点とされるポイントと組み合わせた、
複合的かつ緻密な戦略の一部として実行されるべきです。
例えば、ボディへの執拗な攻撃でガードを下げさせる。
下からのフックや、井上選手が不得手とする右側への回避を誘うパンチで意識を散らす。
そして、一瞬の隙が生まれたタイミングで、的確に顎へクリーンヒットを叩き込む。
多角的なアプローチが考えられますが、井上選手自身も常に進化を続けています。
弱点を研究されればそれを克服するだけの知性と技術を持っています。
ルイス・ネリ選手は井上選手の弱点を「いくつか見つけている」と語っていましたが、
その具体的な内容は明かされていません。
まとめ
結論:「ガラスの顎」狙いは諸刃の剣、総合力が問われます。
井上尚弥選手を「ガラスの顎」と評するのは、
彼の戦績とこれまでの試合内容を鑑みれば、やや誇張された見方です。
つまり「ガラスの顎」ではないということでした。
ダウン経験は、ボクシングという競技の特性上、どんな強者にも起こり得ることです。
対戦相手が井上選手の顎を狙うという戦略は、
確かにKOという最大の結果に繋がる可能性を秘めていますが、
同時に大きなリスクを伴う諸刃の剣です。
井上選手の卓越したディフェンス能力、カウンター技術、
そして試合全体をコントロールする能力を考慮すれば、
単純な顎狙いだけで攻略できるほど甘くはありません。
井上選手を倒すためには、「ガラスの顎」という一点に固執するのではなく、
指摘される他のわずかな弱点(下からのフックへの対応、特定の回避方向、ボディへの意識など)を
巧みに突き、試合の主導権を握ります。
予測不能な展開に持ち込む総合的な戦略と、それを実行できるだけの高度な技術、
そして強靭なメンタルが不可欠となるでしょう。
井上尚弥という「モンスター」を攻略する道は、極めて険しいと言わざるを得ません。
やはりモンスターには弱点など存在しないのでしょうか?
どこまで勝ち進んで行くのか見守りたいと思います。