ハビタ営業部長は何を指示した?ほか3店舗でも行われた売上金回収
2026年7月28日、熊本地震後のイオンモール熊本で発生した爆発事故では、7人が死亡しました。
そのうち2人は、雑貨店「ハビタ」の女性従業員です。
2人は来店客を避難させ、いったん屋外へ出ていました。
それでも館内へ戻ったのは、会社側から売上金を金庫へ保管するよう連絡を受けたためだったと報じられています。
しかも、同じような指示はイオンモール熊本店だけでなく、県内のほか3店舗にも出されていました。
ハビタの営業部長は、いったい何を伝えたのでしょうか。
従業員2人が再び館内へ入るまでの経緯と、会社の危機管理で問われている問題を整理します。
ハビタ営業部長が出した指示の内容
ハビタの営業部長が伝えたのは、館内へ戻れる場合は、売上金を回収して金庫へ保管してほしいという内容でした。
報道によると、営業部長は当日休みだった店長を通じて、イオンモール熊本店の従業員へ連絡しています。
伝えられた内容は、次のようなものでした。
「もし戻れるのであれば、売上金を金庫に保管してほしい。無理なら可能な範囲で良い」
強制的な命令ではなく、「戻れるのであれば」「無理なら可能な範囲で」と条件を付けた指示だったとされています。
ただ、最大震度7の地震が起きた直後です。
建物の安全が確認されていない状況で、会社から売上金について連絡が来れば、現場の従業員はどう受け止めるでしょうか。
言葉の上では選択肢があっても、仕事として頼まれれば「できるならやらなければ」と考えてしまうことがあります。
まして、2人は来店客を避難させたあとも現場に残っていました。
店舗の状況や売上金を気にする責任感もあったのでしょう。
営業部長はその後、取材に対し、自分が指示したことは事実だと認めています。
さらに、「責任を痛感している」「中に入るという指示を出したことは問題だった」と述べたと報じられました。
問題は、売上金を守ろうとしたことだけではありません。
人の安全を最優先にするべき場面で、金銭管理の連絡が現場へ届いたことです。
従業員2人が館内へ戻るまでの経緯
亡くなったのは、正社員の大竹玖瑠美さんと、契約社員の同僚女性です。
地震が発生したあと、2人は来店客を屋外へ避難誘導しました。
その後、自分たちも駐車場へ退避しています。
つまり、一度は安全な場所まで出ていたのです。
しかし、店長を通じて会社側の指示を受け、午後5時35分ごろ、2人は一般入口から館内へ戻ったとされています。
ハビタの店舗は2階にあり、売上金を保管する金庫は1階にありました。
大竹さんは駐車場で親族と会った際、「会社からレジの売上金を金庫に入れるように言われたから戻る」と伝えていたと報じられています。
親族は止めたものの、大竹さんは館内へ戻りました。
その約15分後、午後5時50分ごろに爆発が発生しています。
この15分という時間は、あまりにも重いものです。
いったん避難できていた2人が、なぜ再び危険な建物へ向かったのか。
その答えをたどると、会社からの連絡に行き着きます。
ハビタ側は、2人が入口から入る際、イオン側のスタッフに「気をつけて」と言われ、制止されなかったと説明しています。
私だって避難中に「売上金庫に戻して」と店長とか本社に言われたら戻っちゃうよ。だって断ったせいでレジ金盗まれたとか足りないとかになったら責任もてないもん。
— 田島 (@ara40madsingle) August 2, 2026
引用元: 田島 のX
一方、イオン側は、再入館が可能だという趣旨を伝えた事実はないとしており、詳しい経緯は調査中です。
この部分については、双方の説明が完全には一致していません。
ただし、少なくとも2人が会社から売上金の保管に関する連絡を受け、その後に館内へ戻ったことは、会社側も認めています。
「無理ならしなくてよい」という一言があったとしても、社員にとって上司や会社からの連絡は軽くありません。
断れる形になっていたかどうかと、本当に断れる空気だったかどうかは、別の問題なのです。
上司からの直接の連絡は実行せざるを得ない命令のようなものだと思います。
ほか3店舗でも売上金回収を指示
売上金の回収に関する連絡は、イオンモール熊本店だけに出されたものではありませんでした。
営業部長は地震発生後、熊本県内にあるほか3店舗の店長にも連絡しています。
その内容は、施設側から許可を得た場合、売上金を回収して金庫へ保管するようにというものでした。
3店舗では施設側の許可を得たうえで、各店長が売上金を回収し、金庫へ保管したとされています。
ほかの店舗では事故が起きなかったため、結果だけを見れば業務が完了した形です。
しかし、ここで見過ごせないのは、同じ判断が複数店舗で行われていたことです。
イオンモール熊本店だけで起きた偶発的な行き違いではありません。
地震後の対応として、会社側が売上金の保管を各店舗に求めていたことになります。
もちろん、売上金の管理は企業にとって重要です。
盗難や紛失を防ぐ必要もあるでしょう。
ただ、最大震度7の地震直後に優先すべきものは何だったのか。
この順番を間違えれば、現場で働く人が危険な判断を背負うことになります。
ほかの3店舗で何も起きなかったからといって、その指示が安全だったとは言えません。
むしろ、事故が起きなかった店舗でも同様の対応が行われていた事実は、会社全体の災害対応に共通する問題がなかったかを考える材料になります。
その点で、イオングループぼ教育は徹底していると思います。
会社の危機管理で問われる優先順位
今回の事故で問われているのは、営業部長個人の判断だけではありません。
災害時に会社が何を最優先にするのかという、危機管理そのものです。
イオン側は、避難後に館内へ戻らないというマニュアルを強調しています。
一方でハビタ側では、施設側の許可が得られた場合に売上金を回収するという判断が行われていました。
ここには、はっきりとした優先順位のズレがあります。
施設側が入館を止めなかったとしても、会社は従業員に「絶対に戻らないでください」と伝えることができたはずです。
逆に、売上金の話を出せば、現場の従業員は自分の責任として動こうとします。
会社側にそのつもりがなくても、指示を受ける側には重く響くものです。
営業部長は取材に対し、なぜそのようなミスを犯したのかと後悔を口にし、今後は避難を優先し、戻らないよう徹底すると述べています。
8月2日夜には、大竹さんの通夜に社長ら幹部が参列し、遺族へ謝罪しました。
8月3日には、公式ホームページにも謝罪文が掲載されています。
ただ、謝罪によって消えない疑問があります。
なぜ、地震直後に売上金の回収を考えたのか。
なぜ、館内へ戻る可能性を残す指示になったのか。
そして、現場の従業員が会社からの依頼を断れる仕組みは、本当にあったのか。
災害時のマニュアルは、紙に「安全最優先」と書くだけでは機能しません。
責任感の強い人ほど無理をしてしまうことを前提に、会社側が迷う余地のない言葉で退避を命じる必要があります。
今回の事故で最も重く受け止めなければならないのは、売上金を守ろうとした判断が失敗したことではありません。
仕事をきちんと果たそうとした従業員が、その責任感によって危険な場所へ戻ってしまったことです。
会社が守るべきだったのは、金庫の中の売上金ではなく、外へ避難できていた2人でした。
失った命は戻ることはありませんから。
まとめ
ハビタの営業部長が出したのは、施設側の許可が得られるなら売上金を回収し、金庫へ保管してほしいという指示でした。
その連絡はイオンモール熊本店だけでなく、県内のほか3店舗にも伝えられています。
言葉の上では「無理ならしなくてよい」とされていても、会社から頼まれれば、責任感の強い従業員ほど動こうとしてしまいます。
今回問われているのは、ひとつの判断ミスだけではありません。
災害時に現場を迷わせない言葉があったのか、そして会社が本当に最優先で守ろうとしたものは何だったのか。
売上金回収という業務上の判断をたどるほど、危機管理の順番そのものが重く浮かび上がります。