
2025年10月、漫画家・イラストレーターとして長年支持を集めてきた江口寿史さんが、ある“ポスター”をきっかけに大きな注目を浴びています。
荻窪駅で待ち合わせる機会のある人は、
今日から1ヶ月くらいは「ルミネの江口の前でね」とランドマークにしてくださいよろしく。 pic.twitter.com/RgsE5Ml2oP— 江口寿史 (@Eguchinn) September 26, 2025
引用元:江口寿史公式X
その作品は、一見おしゃれでいつも通りの江口ワールドに見えました。
しかし、ネット上ではある女性の名前とともに“無断使用では?”という声が広まり、瞬く間に炎上。
プロの創作と著作権・肖像権をめぐるこの問題、一体どこに落とし穴があったのでしょうか。
そして、これまで築いてきた名声と実績に、どんな影響が及んでいるのでしょうか――。
背景に潜む違和感とともに、今回の“金井球ポスター事件”を追っていきます。
江口寿史が無断トレース炎上
1970年代から活躍し、今や“イラスト界のレジェンド”とも言える江口寿史さん。
そんな彼が、2025年10月に突然の炎上。その理由は、なんとInstagram上の写真を無断でトレースし、商用ポスターとして使用していたというもの。
SNSを中心に批判が殺到し、「またトレース問題か…」と波紋を広げました。
今回の件、ポイントは2つあります。
ひとつは無断使用だったこと。
もうひとつは、それが商用の大型ポスターだったということです。
中央線文化祭のイラストは、インスタに流れてきた完璧に綺麗な横顔を元に描いたものですが、ご本人から連絡があり、アカウントを見てみたらSNSを中心に文筆/モデルなどで発信されている金井… pic.twitter.com/ond4cdH6qp
— 江口寿史 (@Eguchinn) October 3, 2025
引用元: 江口寿史公式X
使用されたのは、モデルとしても活動している、金井球さんの横顔写真。
江口さんはこの写真をトレースして、JR中央線沿線で開催される「中央線文化祭」のポスターとしてルミネ荻窪駅に掲出しました。
ところが、金井さん本人はこの使用についてまったく知らされておらず、偶然ポスターを見た本人が驚いてXに投稿したことで事態が発覚します。
江口さん側はその後、事後的にモデル本人に連絡を取り、合意を得たうえでX上にイラストを再公開。
使用料も支払ったとされています。
ここで疑問なのは、「なぜ事前に許可を取らなかったのか?」という点。
江口さんはインタビューなどでたびたび「トレースは技法のひとつ」と語っており、今回も「インスタで流れてきた写真を見て描いた」と発言しています。
しかし、SNS上ではこの姿勢に批判が殺到。
「昭和の感覚で令和に通用すると思ってるの?」
「“第二の古塔つみ”って感じで正直ガッカリ…」
こうした声が目立ちました。
ちなみに「古塔つみ」とは、2021年に同様の無断トレース問題で大炎上したイラストレーターのこと。
江口さん自身も当時、古塔氏を批判する発言をしており、今回の件はまさに“ブーメラン”状態となっています。
ネット上では、「プロとしてのモラルがない」「才能が枯れたのか?」といった手厳しいコメントも続出。
さらに、「昔は許されても、今は違う」という意見が多数を占めており、時代の価値観とプロ意識のギャップも指摘されています。
ルミネ荻窪側はすでに10月3日にポスターをすべて撤去し、「制作過程に問題があった」との声明を発表。
江口さん本人は現在までに公式な謝罪は行っておらず、自身のX(@Eguchinn)も沈黙を貫いています。
この事件は、ただの“トレース問題”にとどまりません。
長年業界の第一線で活躍してきたアーティストが、時代にどう向き合うのか。そしてSNS時代における肖像権や著作権のあり方が、改めて問われているのです。



金井球ポスター事件の詳細
江口寿史さんの“無断トレース炎上”がここまで注目されたのは、単なる技法の話ではなく、「商業利用」かつ「本人に無断で」使われたという点が大きいです。
つまり、イラストの「使い方」にこそ問題の核心がありました。
実際のポスターは、JR中央線沿線で開催されるカルチャーイベント「中央線文化祭」の告知用に制作されたもの。
ルミネ荻窪駅に大々的に掲示され、多くの人の目に触れる商用ビジュアルとして展開されました。
しかも、JRグループおよび関連企業による公式プロモーションという点で、イラストの信頼性や正当性も問われやすい状況でした。
ところが、使用されていた女性のビジュアルは、Instagramに投稿されていたモデル・金井球さんの写真を元に、江口さんが無断でトレースしたもの。
本人がこのことに気づいたのは、街中に貼られたポスターを見たわけではなく、SNSのフォロワーからの報告でした。
引用元:金井球公式インスタグラム (この投稿の4枚目の顔を拡大して、トレースしたのか?)
金井さんは、Xで次のように投稿します。
「知らないうちに私の横顔が荻窪に大きくなっていた…」
驚きと困惑のニュアンスが伝わってくる一文です。
(わたしの横顔が、知らないうちに大きく荻窪に……!?)
と、お問合せをしたところ、直接ご連絡をいただき、このようなかたちとなりました。金井球と申しまして、嫌いな食べ物と愛用しているお風呂用洗剤があります。わたしはわたしだけのものであり、人間としてさまざまな権利を有しております。 https://t.co/Cgib0bbBVh pic.twitter.com/WO2Cnilklf
— 金井球 (@tiyk_tbr) October 3, 2025
引用元:金井球公式X
この投稿をきっかけに事態は一気に拡散し、多くのユーザーが「これってアウトでは?」「プロとして雑すぎる」と反応しました。
その後の対応は、関係各所で分かれます。
まず江口さんは、自身のXでイラストを再投稿しつつ、「事後的に本人と連絡を取り合い、合意の上で使用料をお支払いしました」と説明。
つまり、後から許可を取ったので問題はないというスタンスでした。
一方で、ポスターの掲出元であるルミネ荻窪は、「制作過程に問題があった」として10月3日付ですべてのポスターを撤去。
その後もイベント広報を一時休止し、対応を協議する異例の事態となりました。

この違いが象徴的です。
江口さんは「済んだ話」として早々に投稿を終えましたが、ルミネ側は企業としての責任を重く見て、公式に謝罪と撤去を決定したわけです。
また注目されたのが、今回の「肖像の扱い」に関する姿勢の違い。
法律上、一般人であっても肖像権は存在します。
特に商業利用となると、事前に書面での同意を取るのが業界の常識。
しかし今回、それが守られていなかったことに、多くのクリエイターや企業関係者からも疑問の声が上がりました。
彼女の顔をベースにしたイラストが、本人の知らないうちに駅構内に巨大に貼り出されていたわけです。


これはもう、「見つけた人が教えてくれて良かったレベル」の話では済まされません。
もちろん、「トレースは技法のひとつ」という考え方もあります。
でも、他人の顔をベースにし、それを商用で大規模に利用するなら、最低限の確認や契約は必須。
それがプロの仕事として当然のラインです。
そしてこの事件は、江口寿史さん個人の問題にとどまらず、イラスト・デザイン業界全体の倫理観を問う流れにも発展しています。
「写真を見て描いただけで、ここまで炎上するのか?」
そんな声も一部にはありますが、問題の本質は“描いた”ことではなく、“使った”こと。
しかも、営利目的で、公の場で、多くの人に向けて。
それが“金井球ポスター事件”の核心なのです。


過去の言動と類似炎上
今回の“無断トレース炎上”で多くの人が驚いたのは、江口寿史さんのこれまでの発言とのギャップでした。

江口さんといえば、イラスト業界では長年第一線で活躍してきた重鎮。
「ストップ!!ひばりくん!」をはじめとするヒット作だけでなく、近年はオシャレでスタイリッシュな女性イラストで再評価され、若い層にも人気のある存在です。
そんな江口さんは、2021年に出版した美人画集『彼女』の関連トークイベントで、「パクリと模倣の違い」について語っています。
その中で、彼はこう明言していました。
「パクリは無邪気な盗用。模倣は影響を受けて自分のものに進化させること」
この発言からは、クリエイターとして「線引き」に自覚的であることが伺えます。
さらに、SNS時代には“偶然バズっただけ”の作品も増え、コピーとの区別が曖昧になってきたとも語っていました。
このように、自らが模倣と盗用の違いをしっかり語っていたにもかかわらず、今回の無断トレース騒動はどう見ても“盗用寄り”。
しかも、その事実を本人が事前に確認せずに公に出していたという点が、大きな矛盾として突かれました。
皮肉なことに、江口さんは過去に他のイラストレーターに対して「パクリじゃないか?」と圧力をかけて謝罪に追い込んだ経験もあります。
具体的には、末松正博氏という作家に対して、江口風の絵柄を使ったことで“自分のスタイルを盗られた”として問題視したというエピソードが、本人の口から明かされています。
では、なぜ今回だけ「これは問題ない」となるのでしょうか?
この“ダブルスタンダード”に多くのファンや同業者が疑問を感じたのです。
さらに、今回の事件はあの「古塔つみ事件」を思い起こさせます。
古塔つみさんは、2021年に同様の“写真トレース”を無断で行い、商業活動に利用していたとして大炎上。
最終的には活動を大きく制限され、表舞台から姿を消すことになりました。
面白いことに、江口さんは当時、この古塔氏の件を批判する側に回っていたのです。
「ああいうのはアートじゃない。単なるコピーだ」
ところが、今回の事件をきっかけに、「第二の古塔つみ」と揶揄される側になってしまったわけです。
もちろん、江口さんの場合は「事後的に合意を取った」という点で違いはありますが、
問題の本質は「創作に対する姿勢」や「プロ意識」といった、より根深い部分にあります。
江口寿史のこれも新木優子に似てる。https://t.co/4RGhSKtiTF pic.twitter.com/M9BPJNjK7M
— Salz (@milksalz) October 4, 2025
引用元:SalzのX
また、SNSではこんな声も目立ちました。
「江口風のイラスト描いてる若手を叩いてたくせに、自分は無断使用かよ…」
「“俺はいいけどお前はダメ”っていう昭和型の権威主義」といった内容が多数ありました。
一部の方が指摘しているように「昭和の価値観」が丸出しなんですよ。
昭和時代はアンディ・ウォーホルが人物(マリリン・モンローや毛沢東)の写真をおそらく無断でコピーして創作に活用し、それがポップアートの傑作と言われていました。
江口寿史さんは年代的にもこの影響を受けていたと思います。… https://t.co/U9DTXMlTmX— 小林明 dylan-adachi,Inc (@dylanadachi) October 4, 2025
引用元: 小林明 dylan-adachi,Inc のX
時代が変われば、求められる倫理観も変わります。
昭和・平成では「バレなければOK」だったことが、令和では「確認しなければアウト」とされる。
SNS時代の情報網の凄さを知ることになったと思います。
時代が変わり、この価値観のアップデートに、江口さんが追いついていなかったという見方もできそうです。
なお、江口さんの「写真を元にするスタイル」は、業界内では以前から“公然の秘密”とされていました。
つまり、「写真参考にしてるよね」と暗黙の了解があったわけです。
ですが、モデルの肖像を無断で商用に使った今回のケースは、さすがにアウトでした。
今後、イラスト業界でも「トレース技法の透明性」や「肖像権との向き合い方」がより問われるようになるでしょう。
江口寿史さんの炎上は、単なる一件の騒動ではありません。
“古いプロ意識”と“新しい倫理観”がぶつかった象徴的な事件だったのかもしれませんね。
まとめ
今回の江口寿史さんによる無断トレース騒動は、創作手法の是非だけでなく、プロとしての姿勢や時代に即した倫理観が問われる出来事となりました。
金井球さんの写真を元にしたポスター使用が発覚し、本人の同意を得る前に商用利用していたことが大きな波紋を呼んだのです。
過去の発言や他者への批判と矛盾する行動も批判を強めた要因といえるでしょう。
この事件をきっかけに、イラスト業界における肖像権や著作権の意識が改めて問われています。